私は40年間、建設コンサルタントとして交通事故データの収集・分析に携わってきました。
営業職でありながら、現場により深い理解を持ちたいという思いから、道路部門を含む4部門のRCCM(シビルコンサルティングマネージャ)資格を取得しています。
長年の経験から、事故の背景には単なる加害者と被害者という二項対立では説明できない複雑な要因が絡み合っていることを学びました。
本稿では、ある痛ましい事故の背景に潜む人間の機微に迫ってみたいと思います。
下記は創作です。
最後の一杯
春木智也(20)は、スマートフォンの画面に表示された時刻を何度も確認していた。
午前0時45分。
後部座席で眠りこける親友の山田を横目に、ハンドルを握る手に力が入る。
「まだ大丈夫、まだ行ける」
そう自分に言い聞かせながら、春木は緩やかにアクセルを踏んだ。
わずか30分前まで、彼らは地元の居酒屋で同級生たちと卒業を祝う会を開いていた。
春木は普段からほとんど飲酒をしない。
しかし、この日ばかりは特別だった。
高校からの親友である山田が、来月から東京の大学に進学するのだ。
最後の思い出作りのつもりで、いつもより多めにビールを注文した。
「おい、智也。本当に大丈夫か?」
帰り際、山田が心配そうに声をかけてきた。
「俺が運転しようか?」
「いや、大丈夫だって。お前の方が飲んでるだろ」
確かに山田の方が酔いは回っていた。
春木は3杯程度。
まだ意識ははっきりしていると思った。
そもそも、車で来たのは春木だ。
責任は取らなければならない。
深夜の郊外
街灯の少ない片側一車線の道路を、春木の軽自動車はゆっくりと進んでいた。
スピードメーターは時速40キロを指している。
普段なら50キロは出す道だが、今夜は慎重に運転しようと決めていた。
街灯と街灯の間の暗がりに、春木は目を凝らした。
路肩には春の訪れを告げる桜の枝が伸びている。
まだ蕾は固く閉じていた。
「ん…何時だよ…」
後部座席で山田が寝ぼけたように呟く。
「もうすぐ1時。あと10分くらいで着くから」
その時だった。
前方約30メートルの位置に、人影が見えた。
暗闇の中、黒い服を着た人物が、ゆっくりと道路を横切ろうとしていた。
「あっ!」
春木は咄嗟にブレーキを踏んだ。
しかし、アルコールの影響か、いつもの反射神経が鈍っている。
ブレーキを踏むタイミングが、わずかに遅れた。
ここで筆者体験です。よろしければご参考に。
事故を起こしてしまった時の補償を考えると、任意保険の重要性を痛感させられる出来事だった。
特に対人賠償は、人身事故における高額な賠償金への備えとして必要不可欠だ。
「キキーッ!」
タイヤを鳴らす音が、静寂な夜の街を切り裂いた。
しかし、制動距離が足りなかった。
「ドスン!」
鈍い音が響き、人影が車のボンネットの上に跳ね上がる。
そして、アスファルトの上に崩れるように倒れた。
「うわあああっ!」
後部座席の山田が目を覚まし、叫び声を上げた。
春木の頭の中が真っ白になる。
ハンドルを握る手が震え、冷や汗が背中を伝う。
「嘘だ…嘘だ…」
車を路肩に寄せ、急いで降りる。
倒れている人影に駆け寄ると、そこには小柄な老女が横たわっていた。
意識はなく、かすかに呼吸をしている様子だった。
「救急車!救急車を呼ばないと!」
山田が携帯電話を取り出し、震える手で110番通報を始めた。
交通事故は誰にでも起こりうる。
だからこそ、適切な補償内容を備えた自動車保険の選択が重要になってくる。
春木は膝から崩れ落ちた。
目の前で横たわる老女の胸の上で、両手を重ねて必死に心臓マッサージを続ける。
救急車のサイレンが近づいてくる音が聞こえる。
「おばあちゃん!しっかりして!」
救急隊が到着し、老女は直ちに救急車に収容された。
そして、パトカーから降りてきた警察官に、春木は震える声で事情を説明した。
呼気検査の結果、基準値を超えるアルコールが検出された。
後に判明したことだが、老女は近所に住む村井さと子さん(78)。
認知症の初期症状があり、深夜に一人で外出してしまうことがあったという。
この日も、家族が気付かないうちに外出していたのだ。
救急搬送から2時間後、村井さんの死亡が確認された。
春木は警察署に連行され、取り調べを受けた。
それから3ヶ月後—
「被告人、起立」
地方裁判所の法廷で、春木は判決を言い渡された。
禁錮3年、執行猶予5年。
そして5年間の運転免許取消処分。
交通事故の示談交渉では、専門家のサポートを受けることで、より適切な解決につながることがある。
ここで筆者体験です。よろしければご参考に。
判決後、春木は村井さんの遺族に対して深々と頭を下げた。
「申し訳ありませんでした」
その言葉に、どれほどの重みを込めても足りないと感じていた。
春木の人生は、あの深夜の数秒で大きく変わった。
東京の大学に進学した山田とは、時々連絡を取り合うものの、以前のような関係には戻れないでいる。
現在、春木は地元の工場で働きながら、交通安全講習会でスピーカーとして自分の体験を語っている。
特に若者たちに向けて、飲酒運転の危険性を訴え続けている。
「たった一杯のアルコール。
でも、その一杯が人の命を奪い、そして自分の人生も変えてしまう。
僕は、それを身をもって知ることになったんです」
春木の後悔と贖罪の日々は、まだ始まったばかりだった。
了
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