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「カリスマ」新堂冬樹ーオウムを彷彿とさせるカルト教団の恐怖

おすすめ暇潰し本

新堂冬樹氏の長編小説「カリスマ」の紹介です。

いつもは本の紹介の場合、あらすじや感想を述べることにしていますが、今回は登場人物のキャラクターに焦点を当てて紹介したいと思います。

と言うのもこの小説、新堂氏の登場人物の描き方が際立っているからです。

これほど徹底して人物を掘り下げ、物語を構築されている小説は滅多にお目に掛かれません。

面白いです!

神郷宝仙

この物語の主人公です。

宗教法人「神の郷」の教祖として君臨しています。
教徒たちには自分を「メシア」と呼ばせ、絶対服従を誓わせています。

実は神郷には壮絶な幼少期の体験がありました。

美しく聡明な母佐代子がある時期から新興宗教にハマり、家庭のことはそっちのけで教団に入り浸るようになりました。

教祖のことをメシアと呼び、まさに崇め奉るようになったのです。

その傾倒振りは度を越し、常軌を逸したものになりました。

やがて夫には悪魔が憑いていると言い出し、遂には夫の腹を引き裂いて絶命させてしまい、自分にも悪魔が憑いているに違いないと自らの腹も引き裂いてしまうのです。

その惨状を目の当たりにした幼き神郷はメシアと呼ばれた教祖に復讐を誓うのでした。

ところが、神郷の辿った道は自分が憎んでいたはずのあの「メシア」とそっくり同じだったのです。

神郷は「神の郷」という新興宗教を立ち上げ、次々に入信してくる教徒から大金を巻き上げ、自分を「メシア」と呼ばせ絶対服従を誓わせるのでした。

一見、慈愛に満ちた神郷の顔や言葉は教徒の信頼を勝ち取るには十分で、その「洗脳術」は他の追随を許さないものがありました。

特筆すべきはこの神郷の本性でありキャラクターです。

実はこの神郷ほど俗物的な人間もいないのではないかと思われるほどに「欲」の塊だったのです。

まずは無類の女好き。

教徒の中でこれはと目をつけた女性信者を夜な夜な呼び出し、自分の部屋に連れ込んでは「色欲開放」の修行と称して淫行三昧。

そして飽くなき金銭欲。

スーパーマーケットで買った食パンの切れ端を「イエスが弟子に与えたパンの残り」と厳かに言いながら数十万円で信者に売り付けるという非道振りです。

さらには教徒の前では「自分は神である。したがって飲食を必要としない。」とのたまいつつ、夜間は教徒絶対入室禁止の教祖部屋でひとりステーキを焼き、高級ブランデーを煽るという俗物振りです。

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城山麗子

この俗物・神郷が目をつけたのが美しき人妻、城山麗子です。

子供を「神の郷」の下部組織である学習塾に通わせていた麗子はあるとき

「お子さんの中学受験を真剣に考えるなら、まず母親から意識改革をしなければならない。」

と説諭されて学習塾主催の研修会に参加することにしたのです。

そのときは学習塾が「神の郷」の隠れ蓑とは知らなかったので、参加費が5万円と聞いて高いと思いながらも子供のためと参加を決めたのでした。

ところがこれが、洗脳への第一歩でした。

研修会で既に半分ほど洗脳されていた麗子は、一週間の合宿に参加することを決めていました。

合宿に参加するとそこではもはや、子供の受験のことなど話もなく、むしろ「学校教育こそが悪の根元」だなどと吹き込まれ、日を追うごとに神郷の洗脳の術中にはまって行くのでした。

合宿の中日あたりには自己を開放するという名目で全員が全裸で修行するというメニューがあり、まだ少しの羞恥もあった麗子でしたが、周りの熱に急かされるようにやがて一糸纏わぬ姿になるのでした。

それを隠しカメラで見ていた俗物・神郷はさらになんとしても麗子を手元に置きたいと念ずるようになったのです。

城山信康

この、ひとも羨む美人妻の夫が城山信康です。

もともと、裕福で名門女子大出の麗子に対して高卒で小さな旅行代理店に勤める信康は引け目がありました。

 

なぜ、麗子が自分のようなパッとしない男と結婚したのかいまだにわからないまま、麗子に嫌われないことだけを考えながら暮らしています。

 

自分は麗子を愛している、麗子も自分を愛してくれている、それだけが生きる活力であったと言っても過言ではありません。

 

ところがこの城山信康が出色のキャラクターで、良くも悪くも誰しも身に覚えがあるという性格の持ち主なのです。

 

切り詰め切り詰め生活をしているので、その思考は常に質素倹約に向かいます。

タバコ一箱を2日もたせることが自分に課したノルマになっています。

 

その性格も、器が小さいくせに見栄を張りたがるという実にいじましい器量の持ち主です。

ヤンキー風の客には媚びへつらい、社長から叱責されると夜ひとりになったときにキャンペーン用のタレントの看板を社長に見立てて殴る蹴るの鬱憤晴らしをするという卑屈さです。

 

信条はただひとつ、「自分は妻を愛している。妻も自分を愛してくれている。」それだけです。

 

それは捻れて「麗子に捨てられたくない」という思いになっています。

 

そんな城山は麗子を魔の教団から救い出すことができるのか。

物語の興味は尽きません。

古本屋の三蔵

そんな小市民で見栄っ張りの城山にも唯一心が許せる相手がいました。

学生時代から行きつけの古本屋を営んでいる三蔵でした。

 

地下で卓球教室を経営していた三蔵は教室をやめた今でも卓球台を1台だけ残して城山にときどき貸していました。

 

城山は会社で鬱憤が溜まったときにはそこでひとり球を打っていたのでした。

そこで汗を流しているときだけは自分の矮小さも忘れることができるのでした。

 

やがて妻がとんでもない宗教にはまったとき、城山は三蔵に相談を持ち掛けるのでした。

この世捨て人のような老人が役に立ってくれるのかと思いつつ、普段から人付き合いの下手な城山には他に相談する相手もいなかったのです。

さあ読んでみよう!

上ではさらりと流しましたが、麗子が洗脳されていく過程は迫真のリアルさがあります。

麗子は人には言えない心の闇を持っていました。

そこに巧妙につけ入る教団幹部。

麗子は俗物・神郷の餌食となってしまうのでしょうか。

 

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