「最悪」奥田英朗ー全く別の人生を歩む3人が出会うときさらに最悪な展開が待っている
奥田英朗氏は1959年生まれ、岐阜県岐阜市の出身です。
地元の高校を卒業後、プランナー、コピーライター、構成作家などの仕事をしつつ1997年「ウランバーナの森」で
作家デビューされました。
いわゆる出版社等の新人賞を経てのデビューではなく原稿の持ち込みでデビューまでこぎつけたという苦労人の一面もあります。
その後、本作「最悪」で注目を浴び、2004年には「空中ブランコ」で直木賞を受賞しています。
本作はデビューから2年後の作品ですがその完成度は非常に高く面白い小説になっています。
主人公は3人います。
それぞれ全く違う環境で全く違う暮らしをしています。
もちろん互いに面識はなく通常なら知り合うこともない人物たちです。
その3人が出会ったらどういう状況になるか、それがこの物語の肝でしょう。
ある町で鉄工所を経営している川谷はいわゆる町工場の親父さんです。
下請け仕事で何とか日々をやり繰りしている典型的な零細企業の社長です。
毎日、親会社から単価を安くしろだの納期を早めろだのと無理難題を押し付けられて四苦八苦の経営を続けています。
近隣の住民からは工場の音がうるさいと苦情を言われ、午後7時以降は操業しないようにと申し入れられたりします。
ある日、親会社から新規の設備投資を持ちかけられ導入すれば受注が増え利益の確保にもつながるし、何と言っても親会社と密な関係が築けるとの計算から無理を承知で導入を決断したのです。
ところが導入に際してあてにしていた銀行から新機械搬入の直前に融資を断られまさに最悪な状況に陥っていたのです。
銀行員のみどりは圧倒的男性社会である銀行という職場の中でやりきれない毎日を過ごしていました。
仕事そのものには誇りもあり、やりがいも感じているもののやはり女性には出世の道もなく、ともすれば雑用を押し付けられる日常を送っていました。
あるとき、上司である支店長からセクハラ行為を受け同僚に相談しましたが、同僚は同情しながらも不問に付そうとしました。
もめごとはあってはならない、多少のセクハラは我慢するのが職場のルールと言わんばかりの対応でした。
気ままな生活を送っている和也はいわゆるチンピラ。
一日中パチンコをし、金が無くなったらカツアゲや盗みもやるといういつ警察に捕まってもおかしくない暮らしをしています。
ある日、工場からトルエンを盗み出して売ることを思いついた和也は悪友と行動に移ります。
しかし、その悪友はヤクザとも付き合いがあり、和也は知らず知らずのうちにヤクザに取り込まれるようになって行きます。
トルエンの盗みでしくじり、ヤクザから金を要求され付き合っていた彼女を拉致監禁されひどい目にあわされるという絵に描いたようなドツボに嵌っていきます。
それぞれどうしようもない閉塞した状況に置かれた3人が運命に導かれるようにある一地点に出くわすとき、さらに最悪な状況に陥っていきます。
全く違う人生を歩む3人の描写が素晴らしくリアルです。
町工場の川谷は、さぞやそうであろうと思わせる零細企業の社長のジレンマがビシビシと伝わってきます。
銀行員みどりの場合、家族からの過度の期待がさらに彼女を追い詰めていくという息苦しさが実感を伴って伝わってきます。
チンピラ生活を送っている和也に関してはドロップアウト人生の教科書を見ているような気分になります。
それぞれがリアルに描かれ、ディテールも詳細なので身につまされる感覚があります。
3人が出会ってからの展開はスピーディーであり、息もつかせない急展開の連続で飽きさせません。
思わず一気読みしてしまう作品でした。
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